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執筆者の写真金子充

ベーシックインカム論を手がかりに所得保障を考える(3)

更新日:2022年2月25日


2021年度 明治学院大学社会福祉学科3年「演習1」 金子ゼミ




私たちは大学生を対象に「ベーシックインカムに関する意識調査」を実施しました。

調査対象は大学生とし、グーグルフォーム(Google Form)を使ってオンラインによる回答をお願いしました。

調査日は2021年11月8日から16日の1週間で、総計238人から回答を得ました。

以下で主な調査結果を簡単に紹介します。



1.ベーシックインカムの認知度

ベーシックインカムを「知っている」と答えた人は、全体の約30%と私たちの予想よりかなり低いものとなりました。「全く知らない」と答えた人は、23%でした。



2.ベーシックインカムの認知度(学んでいる専門別=学科別)

回答者を「社会福祉学科」と「その他の学科」で分けた場合、社会福祉学科生では、「知っている」と答えた人が一番多く、約39%で、その次が「聞いたことがある程度」で約30%でした。

その他の学科生は、「聞いたことがある程度」と答えた人が一番多く、約34%で、その次が「まったく知らない」で約30%でした。

このことから、社会福祉を学んでいる大学生以外にとっては、ベーシックインカムはあまり、認知度が高くないと考えられます。



3.ベーシックインカムに「条件」をかけるべきか

ベーシックインカムを導入する際に、収入や資産の条件を設けるとした、どのような条件にするべきかという選択肢をつくり、アンケートをとりました。

「条件」としては、①条件なし(完全無条件)、②収入、③資産就労能力、④年齢、⑤職業、⑥家族の扶養人数、⑦地域、⑧社会貢献の8つを設定しました。


ベーシックインカムを知っているか知らないかの違いによって、条件付けをするとしたらどのような条件にするべきかどうかをクロスさせて分析しました。

図のように、ベーシックインカムの認知度に関わらず「収入を条件にするべき」が最も割合の多い回答となりました。このことからも日本ではやはり経済的な給付をおこなうにあたって収入の有無や金額を条件にするべきだという声が多いことが想像できます。それはつまり生活保護のようなイメージです。

次に支持が多い条件として「就労能力」と「家族の扶養人数」、次いで「資産」などが挙げられました。このことより、普段の生活状態を条件にすることが求められていると推測されます。

「完全無条件(ユニバーサルBI)」と「社会貢献」については、ベーシックインカムを「知っている」とした人からの支持が多いという結果になりました。

また「地域」という回答が少ないことからは、貧困率の高い地域に限定したりするよりも、あくまで個人の生活状況による条件を設けた方が良いという考える人が多いことが分かりました。



4.現在の自分の暮らしぶりによって意識に違いはあるか

次に「経済的余裕がある人」と「ない人」で分けてベーシックインカムを支給する際に付ける「条件」の違いについてアンケート集計をしました。

双方、「収入を条件に付けるべき」が最も割合が高く、続いて就労能力や家族の扶養人数を条件に付けるべきという結果となりました。

経済的余裕がない大学生に焦点を当てると、経済的余裕がある大学生に比べて、年齢や地域を条件にするべきだという声が多い傾向がみられます。このことより経済的余裕がない大学生は過疎地域や少子高齢化といった社会的な問題を視野に入れた考え方をしているのではないかと推測されます。

「完全無条件」を重視する割合が予想よりも低い結果になったことは、大学生の多くが政府の財政事情や実現可能性をとても重視していることの現れだと考えられます。



5.コロナ禍の特別定額給付金について

2020年に安倍政権がコロナ対策として国民に一律10万円を支給しました。

これはベーシックインカム的なものであるとも考えられるので、この10万円を学生がどのように使ったのかについて調査してみました。

その結果、「親が受け取り自分はもらっていない」が1番多く、その次に貯金、趣味、学費、日用品となりました。大学生は将来を見据えて堅実的な人が多いと考えられます。

結果を見てわかるように、学生は自分の娯楽や欲しいものに使っているというより必要最低限なものに使っているという傾向があります。政府はコロナ禍で収入が減少した分に対して10万円を支給しましたが、大学生の場合、本人ではなく親が代わりに受け取ったり、貯金をしたりという結果が多かったわけです。このことは、大学生本人たちはそこまでコロナ禍での影響が出なかった結果だともいえるでしょう。




6.ベーシックインカムをもらったら何に使うか(×認知度)

ベーシックインカムを知っている人と知らない人に分けて、それぞれ10万円が支給された場合の使い道について集計しました。

図のとおり、ベーシックインカムを知っているからといって思考が変わるわけではなくベーシックインカムを知らない人とほぼ同じ使用方法をしていました。

一番多いのは「貯金」、次に「趣味」や「食費」が多いという結果です。また、ごくわずかですが、募金、投資に使用する人もいました。ですが募金や投資はベーシックインカムを知らないと答えた方でした。

このように、全て貯金はせず少し趣味や食費に使い、そして他を貯金するといった傾向が見られました。



7.ベーシックインカムをもらったら何に使うか(×暮らしぶり)

現在の暮らしぶりを「経済的に余裕がある人」と「ない人」で分けて、それぞれ10万円が支給された場合の使い道について集計しました。

余裕がある人は「貯金」と回答した人が1番多く、その次に「趣味」という結果になりました。このことから、余裕がある人は衣食住などの生活に絶対的に必要なことには使わず、10万円を娯楽にあてているという傾向があります。

余裕が無い人は、食費、服飾品と答えた人が1番多く、その次に日用品という結果になりました。このことから、余裕が無い人は娯楽に10万円を使う余裕がないため、生活に必要な衣食住に優先的に使用しているという傾向があります。

このように、経済的に余裕がある人と無い人ではお金の使い方に明白に差が出ることがわかりました。



8.考察

調査結果から考察したことをまとめてみます。

まず、大学生の間ではベーシックインカムの認知度が低いことがわかりました。また、ベーシックインカムの認知度や暮らしぶりによって、何を給付の条件にすべきかの差はほとんど見られず、多くの人が収入を条件にすべきと回答しました。

しかしその人の暮らしぶりによって、お金の使い方には差が出ることもわかりました。

以上のことから、私たちは多くの人が納得しやすく、貧困対策としての目的を果たすために、やはり「収入」を条件にベーシックインカムを導入するのが最も妥当なのではないかと考えました。


1年間、ゼミでベーシックインカム研究を進める中で、私たちは、やはり社会保障制度としてのベーシックインカムを導入するなら無条件のユニバーサル・ベーシックインカムこそが理想の選択であると考えてきました。しかしながら、現実には海外での導入事例、予算の試算、大学生への意識調査の結果から、収入という条件を設けて給付を行う「部分的ベーシックインカム」が現実的だという最終的な結論を見出しました。

2021年10月の衆院選で維新の会が公約にも掲げ、注目を浴びたベーシックインカムですが、言葉以上に私たちの生活に大きなインパクトを持ち、実現すれば私たちの生活に大きな変化をもたらすことがわかりました。



*2021年度 明治学院大学社会福祉学科3年「演習1」金子ゼミ グループC


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