NPO法人ほっとポット訪問を振り返って
2023年度 明治学院大学社会福祉学科2年「福祉開発フィールドワーク」
(レジュメ担当:O・S)
2023年8月24日、私たちの班は、NPO法人ほっとポット(さいたま市)を訪問し、事務所にてほっとポットの事業について副代表の方からご説明をいただいた後、地域生活サポートホーム(宿泊所)と障害者グループホームを見学し、入居者へのインタビューをおこなった。内容を以下にまとめる。
1.ほっとポットとは
NPO法人ほっとポットは、社会福祉士が独立開業した「独立型社会福祉士事務所」であり、主にホームレス状態にある方の居住支援をおこなう民間団体である。
団体名の由来は、元々はボランティアとして路上生活を余儀なくされている方へ温かい飲み物とポットをもって訪問活動をしていたことに始まり、どんな方も「ほっ」とできる関係を築きたいという想いからほっとポットを始めたとのことだった。
ほっとポットの主な事業は、電話相談、地域生活サポートホーム(無料低額宿泊所)、障害者グループホーム、緊急一時シェルター(更生保護)、ほっとサロン、フードパントリー、権利擁護事業などである。
中心となっている「地域生活サポートホーム事業」は、住居喪失状態にある方を対象にアパート等の安定した住居の確保を目的とした一時的な住居の提供を行う事業である。また、居住場所の提供に加えて社会福祉士等の資格を有する職員が巡回訪問等で状況把握並びに福祉制度福祉サービスの情報提供、連絡調整支援、 個別支援計画をもとにひとりひとりの目標や課題に合わせた生活サービスを提供し適切な住環境を確保するための支援を行っている。2021年3月時点でサポートホーム施設数は埼玉県さいたま市内において14箇所、居室数は61居室である。施設は全てさいたま市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適切化等に関する条例に基づく「被保護者等住居・生活サービス提供事業」として運営している。
<ほっとポットの施設概要>
障害者グループホーム
軽度の障害(知的障害、精神障害が多い)のある方のためのグループホーム。服薬・金銭管理に関する助言、日常生活の相談支援を行なっている。3か所を運営しており、各定員は4名。日中は作業所等で過ごしている方が多い。基本的に食事の提供はせず、身の回りのことも利用者本人の力で行っている。職人が買い物や洗濯を頼まれることもあるが、職員一人で行うのではなく利用者と一緒にやることを大切にしている。人によって支援の仕方を工夫して自立力をつけてもらうようにしている。レクリエーションの機会をつくり、みんなで買い物に行ったり、温泉や野球観戦を行ったりもしている。
地域生活サポートホーム(無料低額宿泊所)
社会福祉士等が継続的に訪問して専門的な生活支援を行なっている。小規模で家庭的なグループホームの形態を取っている。全部屋個室で家賃は管理費込で6万円ぐらい。現在は男性のみの受け入れとなっている。施設はほぼ満員だが、地域にはまだ家がなくて困っている方が多くいる。
緊急一時シェルター
万引きなど、貧困が原因で罪を犯した方が帰る家がない場合、最大30日間の住居を提供する。被疑者・被告人段階、刑務所出所者を対象に社会福祉制度の生活相談・助言を行なっている。また福祉事務所などへの各種機関へ調整を行なう。
支援は、「シェルター」→「サポートホーム」→「グループホーム」の順に手厚くなっている。
2.入居者インタビュー
① Aさん
70代、男性。統合失調症。
カメラが趣味で、田んぼや花畑で撮影をすることが好きとのことだった。
出身は○○市であり、落語の桂一門との繋がりもあったそうである。中学時代によく万引きをしていて教護院(児童自立支援施設)で過ごしたこともある。その後、措置入院になったり八王子医療刑務所にいた時期もある。
その後、新潟や前橋などの6か所の刑務所を転々としてきた。前科7犯となるが、「戸籍は汚していない」と語っていた。万引きについては、スーパーでマグロの切り身を盗み、イートインスペースで食べてしまったりしていたという。
万引きをしてしまった理由について、統合失調症の幻聴が原因だったと振り返っていた。(売り物を)「とってもよい」という声が聞こえてきたそうだ。今回お話を伺った際は落ち着いていたが、調子が悪い時は言葉遣いの変化、暴言を言ってしまうこともあるという(職員談)。それと施設を放火した経歴もあるという。
調子が悪化した時に限って薬を飲まなくなってしまうことがある。また腰が悪く、買い物が自由にできない。薬の副作用で手が震えるようになったという。その為、時々職員に頼んで買い物をしてもらったり、洗濯物を干したりしてもらうこともある。現在、高齢者施設に入所する調整を進めている。
② Bさん
60代、男性。年金と生活保護を受けて生活をされている。
我々とお話する際にそれぞれの表情をよく見て話されていた。以前、高圧的な福祉事務所の担当者にあたり、福祉関係者に対してがやや不信感を持っている部分があるとのことだった。しかし人と会話する時は相手の表情をよくうかがい、その人を判断している様子が見られた。我々と対話した際は、昔ばなしから現在の生活状況まで照れくさそうに笑顔を挟みながらお話されていた。
○○(ミュージシャン)がお好きで、部屋には写真やファンブック、本人の宝物でもある○○の写真が印刷されたジャケットがあり、見せて下さった。
普段はファミリーマートで買い物を行うが、入居されているサポートホームの立地はあまり良くないらしく、不便さも嘆いていた。
日課として、近くの神社でのお祈りをしているとのことである。同じサポートホームの居住者仲間の安寧を祈っているそうだ。夏の暑い日は6時頃に出るようにしている。
以前は○○市の賃貸マンションにお住まいであった。しかしよく電気が止められていた。建設関係(土木)で14年働いており、年収は多いときで700万あったという。そこを退職されてからは、コールセンターや○○など様々な職を経験されている。新型コロナウイルスの影響で、退職金をもらえないまま勤務していた契約会社を退職し、現在に至っている。
ご出身は○○県○○市で、その後、関東の○○市に移り、社宅に住んでいたこともある。結婚歴があるが、お子さんはいない。弟さんがいらっしゃるが、Aさんより身体が強く学業も秀でていた。その為、ある種の嫉妬のようなものもあり、仲が悪く母親の葬式の連絡もなく参列することができなかった。この弟を含む家族とは絶縁関係にあり、何をしているかもわからないという。
現在は家に居ることがほとんどであるが、本当は表に出て草刈りや老人ホームでのボランティアなどに参加したい想いもある。理由としては新たな出会いがあるからだという。社会貢献をしたい気持ちもあるが、出会いを求めている部分があると語っていた。孤独から解放されたい様子もあり、一人ぼっちは一番つらいとのことだ。実際にお会いした時に「若い子たちと話せてうれしい」と仰っていた。人とのコミュニケーションは嫌いではない様子で、孤独感を感じている印象はあまりなかった。
3.訪問とインタビューを通した考察
福祉事務所の在り方
行政や社会福祉機関は縦割りになっており、特定の分野に特化したサービスを前提としすぎている部分があり、当事者が赴いたところで「専門外なので」と断られてしまうことがあるようだ。その結果、困窮状態にある方が「たらい回し」になってほっとポットのような民間支援団体に行きつく。自身のニーズが何なのか理解できていないこともあり、困窮状態にある方は自分から適切な相談機関にたどり着けないという問題がある。
自立と支援
ほっとポットでは、できることは利用者自身で自分のことを行うという方針を立てている。さらに、本人ができることを増やしていくという支援を心がけているという。生活保護受給者の金銭管理(いわゆる浪費)がバッシングされることがあるが、ほっとポットでは敢えて金銭管理はしていない。そのため一週間で保護費を使い切ってしまったり、金銭管理が苦手だったり、金銭感覚が乏しい方が出てくる。それでもほっとポットの支援にかかっている間に金銭管理を身に付け、自立(独立)した際に困らないようにするためのトレーニングだと考えられている。他の福祉施設や宿泊所では金銭管理をすべて施設側で行ってしまうことがあるそうだが、そのようにしてしまうと施設を出た後に金銭感覚が分からなくなり、その人のためにならない可能性がある。
居住支援だけでなく社会参加の支援
ほっとポットの支援は住居を確保したり生活保護につなげたりすることだけではない。サポートホーム内で居住者同士がコミュニケーションをとることは多くあり、人間関係に複雑な問題を抱えている人達にはややハードルが高いが、心の修復や仲間づくりにつながっているのかもしれない。また、グループホームでは定期的にレクが開かれている。イオンなどでの買い物、温泉旅行、野球観戦、ボウリングなど様々なものがあり、地域社会とつながる機会が設けられている。
地域の理解
ほっとポットのサポートホームは空き家を借り上げて利用している。すべての施設に大家(家主)がいるが、対応が厳しいこともある。また近隣住民からのクレームがあったり、施設設置の際に反対運動が起こったりしたこともある。地域住民が役所に押し掛けてクレームをすることもある。「私たちは切り詰め生活しているのに」(なぜ生活保護受給者を支援するような活動をしているのか)と、入居者を「怠けている人」とみなして差別する人々もいて、こうして地域理解を深めてもらうこともほっとポットの役割のようだった。
しかし一方で、近隣住民が行政にクレームを言った際に、逆に行政が盾になって擁護してくれたこともある。行政からの信頼は得て活動をすることもNPOにとって重要である様子だった。地道な積み重ねが社会や行政を動かすこともあるということだ。
4.感想
入居者は一人ひとり様々な背景や事情があるが、実際にお話を聴くと意外にも我々と何ら変わらない普通の方々であった。ほとんどの入居者は我々よりも年上であり、インタビューをしながら社会の先輩として学ぶべきことが多くあった。自分が気づきもしなかった点をご教示下さり、自分がいかに未熟な若者であるか彼らの人生経験から改め思い知らされた。そして彼らのような方々とバリアを作っているのは自分なのかもしれないと感じた。
ほっとポットの活動は当事者のニーズに合わせ日々、進んでいる。職員は知識だけで動くのではなく、当事者の想いやライフヒストリーなども踏まえ最善を選択している。表情や呼吸などで、担当している当事者のことが分かる職員の方々には頭が上がらない。入居者の方々も職員に信頼を寄せていることが伝わってきた。職員と入居者の関係は良好のようであり、ここまで至るのにお互い、相当な苦労や道のりがあっただろうと思う。社会福祉の活動や仕事は、一つ一つの経験や学び、そして人との関わりの中で当事者と共に成長していくものだと感じた。(O)
ほっとポットを利用するに至った経緯を知っていくなかで、今回お話を聴かせていただいた方々の多くが元々は働いていたり家庭を持っていたりと、ごく普通の方々であるという印象が大きかった。利用者の方も職員の方も、互いに形式的なやり取りだけでないことが、最善の支援につながっていっているのだとわかった。
世間的には、貧困に陥ることは個人の問題(自己責任)であると捉えられることが多いが、それが誤解であること、認識が不十分であることを理解できた。入居者の方々は職員の方々に頼るばかりでなく、主体的に生活をされていた。私たちは、貧困や障害で困窮している方々のこのような側面にもっと目を向けていくべきであり、貧困の負の側面だけでない包括的な理解をしていくことが必要だと考えた。(S)
*文責:
2023年度 社会福祉学科2年「福祉開発フィールドワーク」金子ゼミ
ほっとポット訪問班 O・S
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